日日猫好日だより vol.22

2024.2.4〜2.10のできごと
うた子 2024.02.11
誰でも

魔女修行の日々

毎朝、短い文章を手帳に書き写す「書写」をしている。去年の12月上旬にはじめて2ヶ月と少し。書くのが夕方になることもたまにあるけれど、今のところ欠かさず続けられている。

最近書いた文章のなかにこんなものがあった。

人が怒ったときにあなたに言った言葉を忘れてはならない
ヘンリー・ウィード・ビーチャー

この文章を読んで思い浮かんだのは、わたしがずいぶん前から続けている、ある修行のことだった。

慌てたり怒ったり興奮したりしているとき、普段心のなかにだけある言葉が思いがけない形やタイミングで表に出てしまうことがある。わたしはそれで失敗をすることが多くて、あんなことを言うつもりはなかったのに...と後悔することがたくさんあった。

若い頃はそういうことがあっても「でも、間違ったことは言っていない」「そこまで言わせた相手が悪い」と開き直れたけれど(よいか悪いかは別として)、年を重ねるうちにだんだんとそう思えなくなっていった。自分の言ったことやしたことを振り返って苦い気持ちになるのはもうやめにしたかったし、同じ失敗を繰り返さないためには自分が変わるしかないと思った。

それまでのわたしは、心のなかで何を思うのも自由だと思い込んでいた。表に出さなければ、笑顔の裏で口汚く罵っても悪態をついてもかまわない。それは実際そうなのだろうとも思う。でも、わたしはそれが上手にできない。だったらその意識を変えなくちゃいけないのではないか。そんなふうに試行錯誤しているうちに、表に出す出さないの問題ではなく、何を思うか、どんな言葉を使うか、自分で考えてきちんと選ぶことが大切っぽいぞと思うようになった。

自分がいつも使う言葉、心のなかにある言葉が自分をつくっていくのだとしたら、好まないものは最初から持たないほうがよい。ただ、そのためには、訓練が必要だ。なにしろ今まで野放しだったのだから。まずは、何かにいらだったとき、腹が立ったとき、心に浮かんだ思いを整理して書き出し、分析するようにした。好まないものについては「これはいらない」と意識して捨て、別の言葉に置き換える。表に出したくないものは持たずに手放す。それをただただ繰り返した。

地味だし、きついし、ゴールがあるのかどうかもわからない。それでも淡々と続けていると、自分でも「あ、変わったな」と思う瞬間がくるものだ。わたしの大好きな作品『西の魔女が死んだ』でおばあさんが語っていた魔女修行と同じように。どんなに退屈でもそれを続けていくのが大切だとおばあさんは言っていた。だからわたしはこれからも、この地道で果てのない修行を続けていく。誰かに好かれるためでも、誰かのためでもなく、自分のためにコツコツと。

書写を終えたあと、そんなことを考えながら洗濯物を干した。実際に書く時間は数分でも、そこで出会った言葉をきっかけに世界が広がったり、見え方が変わったりすることがある。わたしはそれがおもしろくて毎日書写を続けているのだなと思う。

今週の献立帳(2/4〜2/10)

2月4日(日)

喉が少し痛かったので、毎週恒例の書店めぐりはお休みして家でゆっくり過ごした。ニュースレターも今週はお休み。

夜:ピェンロー、雑穀ごはん

2月5日(月)

午後から本格的に雪が降り出した。猫たちはめずらしそうに窓の外をみていた。

夜:鶏と卵の醤油煮、厚切りれんこんのきんぴら、豆腐すいとん汁、雑穀ごはん

2月6日(火)

雪のため、仕事は休み。病み上がりなのでのんびりしたいなーと思いながらも、ガリガリと原稿を進めた。今回の原稿はかなりボリュームがあって、計画的に書き進めないと間に合わない。絶対に金曜日までには終わらせたい。

夜:木綿豆腐とあさりと豚のキムチチゲ、雑穀ごはん

2月7日(水)

1日中、原稿を書いて過ごす。ほたるいかと舞茸のガーリックバター醤油炒めがものすごくおいしくて踊り出しそうだった。

夜:塩サバのムニエル、ほたるいかと舞茸のガーリックバター醤油炒め、わかめとじゃがいもと長ねぎの味噌汁、雑穀ごはん

2月8日(木)

朝から給湯器の交換工事。1時間ほどで終了し、新しいお姉さん(ノーリツからリンナイに変えたので音声アナウンスも音楽も変わった)との生活がはじまった。いつお湯が出なくなるかわからないという恐怖から解放されてホッとしている。

午後、これまで順調に編みすすめていたセーターに重大なミスを見つけて、全部ほどいた。編むこと自体が楽しいのでそんなにダメージはなかったけれど、ブルースカイでたくさん励ましの言葉をいただいてとてもうれしかった。

夜:焼きしゅうまい、蒸したじゃがいもとさつまいも、雑穀ごはん

2月9日(金)

仕事のあと手芸屋さんに寄って必要なものを買って帰宅。夕方、無事に入稿したあと、最初から編みはじめた。失敗しても解いてやり直せるのが編み物のよさだなと思う。縫い物も好きだけど、編み物もやっぱり大好きだ。

夜:鶏天、さつまいも・じゃがいも・ごぼうの天ぷら、わかめと卵の味噌汁、雑穀ごはん

2月10日(土)

仕事のあと、録画していたドラマをみたり、昼寝したり、編み物をしたりしてのんびり過ごした。

一方、19歳は今日と明日、朝から夕方までぶっ続けの特訓講義。絶対大変なのに明るく元気に取り組んでいるの、ほんとうにすごいなと思う。みんなおつかれさまということで、夜ごはんは恒例の肉!

夜:焼肉(豚バラ)・焼きしゃぶ(豚肩ロース)、野菜(玉ねぎ・キャベツ・ピーマン)、サンチュ、雑穀ごはん

本棚から1冊

我が家のあちこちにある本棚から1冊を選んで紹介する「本棚から1冊」。今日紹介するのは、『西の魔女が死んだ』です。

冒頭のコラムにも登場した大好きな作品。大学生のときにはじめて読み、大人になってからもことあるごとに引っ張り出して読んでいたのでボロボロになってしまいました。実家を出てひとりで暮らすようになって、これまで見てきた世界とのギャップに驚いて自分を見失いそうになったときに、この本を読んで号泣したんですよね。懐かしいなぁ。わたしのなかに「魔女修行」という感覚があたりまえのようにあるのは、完全にこの作品の影響です。せっかくだから、また読み返してみよう。

著者:梨木香歩

カバー装画:早川司寿乃

新潮社(新潮文庫)

雪を見つめているハルちゃん

雪を見つめているハルちゃん

次の日日猫好日だよりは、2/18(日)に配信予定です。

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